アマゾン川上流域では、先住民族がアヤワスカ茶を儀礼的に用いていた。ブラジル領内では、ボリビアからブラジル領に組み込まれたアクレ州が中心である。
ここで、ハイムンド・イリネウ・セーハを開祖とするサント・ダイミと、ジョゼー・ガブリエル・ダ・コスタを始祖とするウニオン・ド・ヴェジタル(UDV)の二大流派が発生する。
その後、サント・ダイミから、右下のバルキーニャが分岐する。
サント・ダイミでは、中興の祖、セバスチャン教父がセウ・ド・マピアというコミュニティーを建設、「CEFLURIS」という運動を起こし、これが大いに栄えた。
ウンバンダと習合してウンバンダイミになったり、「ニューエイジ」と習合したり、さらにはブラジル国外にも広がった。(ウンバンダというのは、西アフリカ系移民に由来する宗教運動で、特別な薬草を摂取せず、音楽と舞踊によって集団トランス状態に入る。)
もういちど整理すると、ブラジルのアヤワスカ茶系宗教運動の主要な流派は、以下のように展開してきた。
- ハイムンド・イリネウ・セーハ→サント・ダイミ(アウト・サント)
- パドリーニョ・セバスチャン→サント・ダイミ(CEFLURIS(セバスチャン折衷派))
- ダニエル・ペレイア・ヂ・マトス→バルキーニャ
- ジョゼ—・ガブリエル・ダ・コスタ→ウニオン・ド・ヴェジタル(UDV)
サント・ダイミのアウト・サント派やバルキーニャがアマゾン地区で活動を続けているのに対し、サント・ダイミのセバスチャン折衷派とUDVはブラジル全土に展開し、さらに欧米など世界各地に活動を広げてきた。
UDVがツリー的な官僚組織を志向するのに対し、サント・ダイミのセバスチャン折衷派は、リベラルな個々人がリゾーム的に展開していくという対照的な特徴を持っている。もっとも、多様な要素を取り入れながら分裂し展開していくというのは、ブラジルの宗教運動全体の特徴でもある。
セバスチャン折衷派(CEFLURIS)の発展の背景には、都市や海外での、瞑想志向やインド系新宗教との習合がある。CEFLURISの折衷主義の特徴として、礼拝でアヤワスカ茶と同時に大麻を使用する点がある。
大麻(ガンジャ、バング)はインドの宗教的風土では、シヴァ神の象徴である。しかし、セバスチャン折衷派では、大麻は「サンタ・マリア」という女性的な柔らかさの象徴とされ、ダイミ茶(アヤワスカ茶)の男性的な強さと相補的な作用を持つものとして位置づけられている。
ブラジルでは大麻は非犯罪化されているが、違法ではある。アヤワスカ茶と大麻を同時に使うことが、教義上、あるいは法律上、問題があるといった議論がある[*2]。いっぽう、厳格なUDVは、礼拝の外の日常生活においても、アヤワスカ以外の、酒などの向精神薬の使用をいっさい禁じており、ここでもセバスチャン折衷主義とUDVは好対照をなしている。
私じしんが(2004年に)滞在していたことがあるパラナ州クリチバでは、CEFLURISの分教会があり、月に二回、新月の夜と満月の夜に礼拝を開いていた。礼拝ではサンスクリットの聖歌も歌われていたが、大麻は使用されていなかった。
クリチバ市郊外、バテイヤスにあるサント・ダイミ(セバスチャン折衷派)の教会、セウ・ド・パラナ
セウ・ド・パラナはハレー・クリシュナ運動と習合している