入眠時幻覚と睡眠麻痺

通常、入眠後はまずノンレム睡眠に入るが、入眠直後から始まるレム睡眠を、入眠時レム睡眠(SOREMP: sleep onset REM period)と呼ぶ。過眠症の一種であるナルコレプシーに特徴的な現象だが(→「過眠症」)健常者でもふつうに体験される。

入眠時幻覚(入眠期の夢)や睡眠麻痺(sleep paralysis)は、入眠時レム睡眠にともなって起こることが多い。睡眠麻痺では、身体と意識が解離したように感じられることもあり、これは体外離脱体験(OBE: Out-of-Body Experience)という。入眠時レム睡眠は、覚醒時からそのまま意識の流れが連続していることが多いので、入眠時の明晰夢ととらえることもできる(→「入眠時の明晰夢と体外離脱体験時の脳波」)。

睡眠麻痺は健常者でも約半数が、主に十代のころに体験する[*1]


年齢別「金縛り」体験。最初に起こった年齢(紫)と、もっとも頻繁に起こった年齢(黄)[*2]

文化としての「金縛り」

睡眠麻痺は日本では「金縛り」とも呼ばれる[*3]。誰かが体の上に乗っているような錯覚や幻視が体験されることから、死者の霊魂によって起こると解釈されることもある(→「日本人の『金縛り』体験事例」)。

比較文化的な視点からは「金縛り」は日本文化に特有の概念だとされる。他言語には翻訳不能なので「kanashibari」という語が使われるようになっている。また沖縄では「キジムナーにうさーりる(キジムナーに押さえられる)」ということもある。「キジムナー」とは、ガジュマルの木に宿る精霊のことである。睡眠麻痺の体験内容には悪夢が多いが、ときに生々しい性的な感覚を伴う。沖縄では巨大な乳房を持った女のキジムナーが寝ている男の上に乗りかかってきて、その豊満さのあまりに窒息しそうになる、といった体験が語り継がれている。

西洋では「エイリアン・アブダクション(宇宙人による誘拐)体験(AAE: Alien Abduction Experiende)」の報告が多い。それが典型的にはベッドの上や、自動車を長距離運転し続けているときに起こることから、睡眠麻痺の文化的解釈の一種なのではないか、という研究も行われている[*4]。別ページにて詳述したいが「踊り続ける炭素/踊り続ける生命」に、「UFOふれあい館」設立者である木下次男氏のエイリアン体験を紹介しておいた。

西洋神秘思想の文脈では、体外離脱体験は、肉体から非物質的な「astral body(アストラル体(星気体)」が分離し投射されるとも解釈される。これは日本語では「幽体離脱」と表記されることもある。



記述の自己評価 ★★★☆☆
(大まかな概説。不足分は口頭で補う必要あり。)
2019/10/02 JST 作成
2019/10/04 JST 最終更新
蛭川立

*1:堀忠雄「睡眠中の行動」『ヒト睡眠の基礎』(2019/09/27 JST 最終閲覧)

*2:蛭川立による質問紙調査の集計。サンプルが大学生なので、18歳以上の部分の信頼性は低い。

*3:福田一彦(江戸川大学社会学部・江戸川大学睡眠研究所)『「金縛り」の謎を解く—夢魔幽体離脱・宇宙人による誘拐—』は、この分野の数少ない専門家による入門用の好著である。

著者蛭川は2001〜2003年度の3年間、江戸川大学社会学部で助教授を務めたが、福田氏の赴任と睡眠研究所の設立はその後である。日本における金縛り研究は1990年代に東京都神経科学総合研究所の宮下彰夫により進められ、福田氏も私もこの研究グループに加わっていたことがある。

*4:蛭川は2013〜2014年にかけてロンドン大学ゴールドスミス・カレッジ心理学科特異心理学(変則的心理学)研究室(Anomalistic Psychology Research Unit)に客員研究員として滞在したが、この研究室では「エイリアン・アブダクション」を睡眠麻痺に似た現象として研究している。