日本の丙午現象
神話的言説にもとづく象徴的な分類体系は、かならずしも過去の、未開社会・伝統社会だけの観念ではない。日本では江戸時代に、丙午(ひのえうま)=火兄生まれの女は男を喰う悪女であるという俗信が広まった。3サイクル前の1846年には女の子の間引きが増えたとも言われているが、統計的な資料はない。
日本における第二次大戦後の、人工妊娠中絶件数を含めた出生数[*2]
実体化する神話
その次の丙午である1906年には小さな落ち込みがあり、60年後の1966年にはより鋭い落ち込みがある。これは、避妊や妊娠中絶が一般化したからだという理由もあるが、俗信は時代とともに衰退するわけではなく、より広がることさえあるという好例である。もし娘が産まれたとして、将来結婚するときに差別されるかもしれない、といった心配があったのだろうか。
かりに社会の構成員全員が、自分は信じないが、周囲の人々が信じるかもしれない、と考えた場合、誰も信じている個人がいなかったとしても、その観念は社会的な実体となり、逆に個人の思考を規定することになる。
次の丙午は西暦2026年である。
2019/05/22 JST 作成
蛭川立