中南米先住民文化と精神展開性植物

中南米先住民社会は、精神展開薬(psychedelics)を含む薬草を呪術的・宗教的に使用する文化を高度に発達させてきた。


精神展開薬を含む薬草を使用する文化の分布[*1]

狭義の精神展開薬を含む薬草を使用する文化は中南米の先住民社会に偏っている。中米(メソアメリカ)ではメスカリンを含むペヨーテやシロシビンを含むシビレタケが使用され(→「中米先住民文化と精神展開性植物」)南米の北半分ではDMTを含むアヤワスカ(→「アマゾン先住民シピボのシャーマニズム」)やヨポ、メスカリンを含むサン・ペドロなどが使用されてきた。

アンデスでは精神刺激薬であるコカを使用するケチュアの人々がインカ帝国を発展させたが(→「勤勉と強迫の文化」)、アヤワスカを使用する文化は20世紀になってから新宗教運動としてブラジルに広まった。

中南米以外の地域をみると、弱い精神展開作用を持つ大麻が南アジアの文化で重要な位置を占めていたが、狭義の精神展開薬を含む薬草については、西アフリカで、イボガインを含むイボガが使用されてきたぐらいである。変性意識状態を引き起こす身体技法としては、むしろ南〜東アジアでは瞑想、西アフリカでは音楽という文化が発達した。



参考図書
蛭川立 (2002).『 彼岸の時間ー〈意識〉の人類学ー』春秋社



2017/10/29 JST 作成 
2019/06/07 JST 最終更新
蛭川立

*1:シュルテス, R. E., ホフマン, A., レッチュ, C. 鈴木立子(訳)(2007).『図説 快楽植物大全』東洋書林, 28-29.(Schultes, R. E., Hofmann, A. & Ratsch, C. (2001). Plants of the Gods: 2nd Edition. Inner Traditions International.)

図説快楽植物大全

図説快楽植物大全

原題に忠実に訳せば『神々の植物』なのであるが、これが、快楽植物などと訳されているところが、日本の社会の困ったところではある。