超心理学という研究プログラム

超心理学は、まだよくわかっていない人間の未知能力を、まず、それが実在するかどうかはいったん棚上げにして、あくまでも実験のための仮説的な概念として、であるが、その未知能力を感覚系と運動系の2種類に分ける。やや些末にはなるが、まず、用語の整理をしておく。

感覚系の未知能力はESP(Extra Sensory Perception)で、日本語では「超感覚的知覚」「感覚外知覚」などと訳される。やや長く、どうも語感に違和感があることもあり、そのまま「ESP」が使われることが多い。それから、後者の運動系は、PK(Psycho-Kinesis)で、やはり日本語では「念力」「念動」などとも訳されるが、やはりそのまま「PK」が使われることが多い。Telekinesisもほぼ同義であるが、あまり使われない。

さらにESPは、ふつう、3つに分類される。生体が物体を知覚する、通常のESPを透視(clairvoyance)というが、目の前にある封筒の中に入っているもの、などではなく、遠く離れた場所のものを透視する場合は、とくに遠隔透視(RV: Remort Viewing)と呼んで区別されることもある。

また、生体を生体が知覚する、というより、生体どうしの間で情報がやりとりされるかのような特殊なケースを、telepathyと呼ぶ。「精神感応」と和訳されることもあるが、普通はカタカナで「テレパシー」と使われることがほとんどである。

また、特殊なケースとして、時間を先取りして未来の事象が知覚されるような場合をとくに予知(precognition)と呼び、その中でも、本人には明確で意識的な自覚はないが、なんとなく、何かが起こりそうな感じがしたり、まったく何も感じなくても、手に汗をかいていたりなど、無意識的に未来の出来事が知覚されるような場合をとくに予感(presentiment)ということもある。

また、PKというと、ふつう、生体が金属製のスプーンのような物体に作用を及ぼす場合を考えるが、とくに、手かざしによる病気治療のように、テレパシーと同様、生体が生体に作用するという相互作用を仮定する場合は、Direct Mental Interaction with Living Systems(DMILS)ということもある。あえて日本語に直訳すれば、生体に対する精神の直接作用、とでもなるのだろうが、これには手短な定訳はなく、DMILSという略語がそのまま使われることが多い。

なお、PKについては、対象の大きさに応じて、「心の力」がスプーンのような大きな物体に作用すると仮定する場合は、macro-PK(マクロPK)、電子のような素粒子レベルの物質に作用すると仮定する場合は、micro-PK(ミクロPK)と分類することもある。これは、たんに対象とする物質の大きさというだけでなく、前者であれば古典力学的な近似の範囲で十分に議論が可能だが、後者の場合は量子力学的な効果を無視することができなくなるスケールだという意味も含んでおり、そしてmicro-PKは、しばしば量子力学における観測問題と関連づけて議論される。

臨死体験や、前世の記憶を持つという子どもの研究なども超心理学に含めることがあるが、これはむしろ心霊研究の延長線上にあるもので、行動主義をモデルにして構築された狭義の超心理学、つまり実験超心理学(experimental parapsychology)には含まれない。テーマが古くてもはや問題ではないということではない。そうではなく、自発的(spontaneous)に起こる現象を対象とするか、実験室の統制された条件で研究するかという、方法論の違いの問題であり、通常、実験超心理学は、後者の方法をとるが、だからといって自発的な現象の研究に現代的な意味がないというわけではない。

なお、ESPとPKをまとめて、人間の未知能力を総称する言葉として、psiという用語が使われることもある。心や魂を意味するギリシア文字の「ψ」のローマ字表記である。ほんらいの発音は「プシー」であるが、英語訛りだと「サイ」になり、日本語でもそのままサイというカタカナ用語として使われることが多い。ただし、これは種々雑多な、未確認の未知能力を総称する概念であって、そう総称することに積極的な意味はない。にもかかわらず、超心理学を巡る論争では、この「サイ」をひとまとめにして、それが存在するとか、しないとかいった不毛な議論がなされがちである。このことひとつとっても、超心理学を巡る議論が基本から混乱していることを示している。

超心理現象の証拠はどこまで得られたのか

さて、超心理学が仮定する現象の分類は、いくらでも、もっと細かく進めることもできるが、ここで重要なのは、これらの分類は、あくまでもその存在を確かめるために行う実験のための、操作的(operational)な分類であって、初めからその実在が仮定されているわけではないということである。

それでは百年にわたって実験が続けられてきた結果、これらの現象が存在することが確認されたのかというと、証明されたとも、否定されたとも、はっきりしたことは何も言えない。というのも、大量の実験結果は統計的に分析され、そして分析の結果言えるのは、つねに、このような結果が偶然に得られる確率は十分に低い、つまり、どうやら偶然とはいえない、ということだけだからである。ただし、これは超心理学だけがそうなのではなく、心という実体のないものを扱う実験心理学全体が、こうした統計的な方法論をとっているため、つねに「ないとはいえない」という、あいまいな二重否定でしか語れない。そして、その「確率は十分に低い」というのが、5パーセントなのか、1パーセントなのか、あるいはもっと低くなければいけないのかは、研究する側が目安として決めていることで、絶対的な基準はない。そのような意味では、統計的な方法に従っている以上、さまざまな超心理現象、いや、すべての心理現象について、原理的に、確実に存在すると証明されたものはなにひとつない。くどいようだが、統計的な方法というのは、そういうものだからである。

ここまで長々と前置きをしても、なお、(そして、実験のミスやデータの意図的な改ざん・隠蔽などの要素を排除してもなお、)多数に分類され、実験が重ねられてきた超心理現象のうち、少なくとも2、3は存在する可能性が高いといえるだけの十分な統計的結果を蓄積してきている。

第一に、ESPである。狭義には透視のことであるが、下位概念であるテレパシーとは操作的な区別ができないので、まとめて扱われることが多い。

ラインなどによって行われた初期のカード当て実験の結果は、相応に有意な結果を出している。


カード当てESP実験の結果[*1]

この時代はまた、量子力学が発展を遂げた時代であり、初期のESP実験の結果は、ユング共時性の概念にも大きな影響を与えた。


カード当てESP実験の成績を、二人の被験者の距離別に集計したもの[*2]

しかし、距離が遠ざかると効果が減衰するというメタ分析もある。もしそうなら、ESPは量子力学のような現代物理学を持ち出すまでもなく、単純に古典力学的な相互作用として説明できるのかもしれない。

夢テレパシー

オカルトには否定的だったフロイトも、晩年にはテレパシーは存在するかもしれないと考えるようになった(→「フロイトのテレパシー論」)。しかし、ユング量子力学の影響を受けて提唱した共時性の概念とは異なり、フロイトはテレパシーをあくまでも因果性によって解釈しようとした。それは、人間が進化の過程で無意識に抑圧してきた動物的なコミュニケーションであって、夢のような変性意識状態ではそれが顕在しやすいという仮説を論じている。

死者や神仏が「夢枕に立つ」という現象は一般によく語られることだが、そうした逸話を分析すると、じっさいに「夢枕に立つ」のは、死者よりも生者のほうが多く[*3]、このことは、かりにテレパシーという現象が存在するとしても、それが生体間でのコミュニケーションであるという仮説のほうに整合的である(→「転生するのは誰か」)。


夢テレパシー実験結果の概要[*4][*5]

夢テレパシー実験は1970年代にニューヨークのマイモニデス医療センターで大規模な夢テレパシー実験が行われ、統計的に有意な結果が得られた。しかし睡眠実験室での研究には大がかりな設備が必要で、追試を行うのが難しい。夢テレパシー実験を簡略化し、標準化が進められていったESP実験が、ガンツフェルト法である。

ガンツフェルト実験


Natural Mystery - Discovery Channel
夢テレパシー実験からガンツフェルト実験への研究史[*6]

ガンツフェルト法は実験の手続きが標準化されており、かつその標準化された方法で多数の実験が繰り返されてきた。まず、「送信者」と「受信者」が別々の建物の部屋に分かれる。「送信者」は、あらかじめ用意された4種類の画像や動画のうち、乱数で決定されたひとつのイメージを、「受信者」に向けて、思念で送ろうと努力する。いっぽう、「受信者」は――私もブラジルで体験したことがあるが――五感による漏洩が起こらないような薄暗い部屋に閉じ込められ、しかしゆったりした椅子に座ってリラックスする。両眼にはふつう、半分に切ったピンポン球が貼り付けられ、眼を開けても、目の前にはぼんやりした光景が一様に広がっている様子しか見えない。このような状況を、ドイツ語でGanzfeld(全視野)という。また、両耳にはヘッドホンがとりつけられ、サーッという軽い雑音がずっと流されつづける。ようするに、軽い感覚遮断状態におかれる。眠りに入る直前でうとうとしているような意識状態になる。その中で、いろいろなイメージが去来する。感じたことはそのままにしゃべって、録音しておく。


In Search of the Dead I: Powers of the Mind
BBCウェールズ製作「心の力」。ガンツフェルト法など、ESP実験の実際が紹介されている[*7]

実験終了後、受信者が、送信用に用意された4種類の画像のうち、どれが自分の印象にいちばん近いかを判定する。その判定結果が「送信者」が思念で送ろうとした画像と一致する確率は、まぐれ当たりでは4分の1、25パーセントである。しかし、蓄積された実験結果は、約3分の1、33パーセント前後のヒット率を記録しており、これは統計的にはきわめて有意な結果である。


ガンツフェルト実験の結果[*8]

もちろん、通常感覚による情報の漏洩が起こったにすぎない、といった批判もあり、いまだにESPの存在が証明され、定説として受け入れられているわけではない。

乱数発生器実験

PKにかんしては、ラインの時代のサイコロ投げに代わって、放射性元素の崩壊やダイオードのトンネル電流などの物理乱数発生器を使ったミクロPK(micro-PK)の実験が行われるようになった。ダイオードの壁を「壁抜け」するトンネル電子の数や、壁に2つの通り道をあけておいて、光子がどちらを通過したか、などの、量子論的な確率現象を、心の力によって偏らせることができる、という実験である[*9]


ダイオードのトンネル電流を使った乱数発生器実験の結果[*10]。100000回の試行のうち55000回ヒットしているとすると、ヒット率は55%だということになる。

量子力学における「観測」とは何かということについては、非常にわかりにくい議論であり、詳細は稿を改めて論じたいが(→「物理学は『超常現象』をどのように扱いうるか?」)ともあれ、通常の物理学の解釈においては、2つの通り道のうち、どちらを光子が通ったかということは、事前には確率としてしかわからず、かつ、観測者はたんに結果を観測するだけであって、その意志のようなものが観測結果に影響するなどとは考えない。しかし、ミクロPK実験においては、たとえば半々の確率で起こるはずの事象に「念」を込めると、おおよそ55パーセント程度のオーダーで、結果が偏るという証拠が得られている。

しかし、にもかかわらず、心理学、いや、科学界全般で、テレパシーやミクロPKや予感の存在が証明されたという了解が広く共有されてはいない。その大きな理由のひとつは、単純に、多くの研究者がそのような地味で真面目な研究が行われていることを知らないからである。また、なぜ知ろうとすれば知ることができるのに、知ろうとさえしないかといえば、そんなに突拍子もないSFのようなことが実際に起こるなどとは、考えもしないからである。おそらく、そんなおかしなことに大真面目にとりあっている暇があれば、当面、自分の研究を地道に進めたほうが賢明だと、多くの研究者は考えるだろうし、それは正しい選択なのかもしれない。



蛭川立 (2013). 「『心霊研究』から『超心理学』へ(心物問題の形而下学に向けて(1))」『サンガジャパン』15, 221-247.より抜粋、加筆修正。

 
参考図書・参考サイト
石川幹人「超心理学講座ー『超能力の科学』の歴史と現状ー」『メタ超心理学研究室』は実験超心理学分野の(日本語で読める)良質で詳細なレビューであり教科書としても有用である。

https://youtu.be/k8_bzH4lQeo

『超心理学――封印された超常現象の科学』(紀伊國屋書店)

石川幹人・蛭川立による『超心理学』出版記念トークライブ(紀伊國屋書店新宿南口店)

紀伊国屋から出版された石川幹人『超心理学―封印された超常現象の科学ー』(紀伊國屋書店)は上記サイトと同様の内容を書籍にまとめたものである。

超心理学――封印された超常現象の科学

超心理学――封印された超常現象の科学



記述の自己評価 ★★★☆☆
(幅広い領域の解説にはなっているが、内容に濃淡があり、複数のページに分割し整理する予定)
2019/06/06 JST 作成
2019/06/14 JST 最終更新
蛭川立

*1:Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 85. 縦軸は効果サイズ。

Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality

Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality

*2:前掲書, 192.

*3:イギリス心霊研究協会が行った大規模な事例研究は1886年に『Phantasms of the Living(生者の幻影)』というタイトルで出版された。
Gurney, E., Myers, F. W. H. & Podmore, F. (1886). Phantasms of the Living. Rooms of the Society for Psychical Research; Trübner and Co.

*4:前掲書, 110.

*5:ウルマン, M., クリップナー, S. & ヴォーン, A. 神保圭志(訳)(1987).『ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学―』工作舎. (Ullman, M., Krippner, S. & Vaughan, A. (1973). Dream Telepathy: Scientific Experiments in the Supernatural. Macmillan Company.)

ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学

ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学

(マイモニデス医療センターにおける夢テレパシー実験の一般向け解説書)

*6:Discovery Channel (放映年不詳)Natural Mystery.

*7:Iverson, J. (written and produced). (1992). In Search of the Dead I: Powers of the Mind. BBC Wales.NHK教育テレビで『驚異の超心理世界』という邦題で吹き替えが放映された。

*8:前掲書, 192.

*9:前掲書, 192.甲南大学 (2004).「1-13. ツェナーダイオードのトンネル電流」に、わかりやすい解説がある。

*10:Jahn, R. G. & Dunne, B. J. (2009). Margins of Reality: The Role of Consciousness in the Physical World. ICRL Press, 110.

MARGINS OF REALITY: The Role of Consciousness in the Physical World (English Edition)

MARGINS OF REALITY: The Role of Consciousness in the Physical World (English Edition)