水木しげるの精神展開体験が、妖怪漫画家であった氏独特の、薄気味悪く、かつ、どこかユーモラスな筆致によって描かれているが、子宮への回帰という元型的な体験はまた、メキシコ先住民ウィチョールの、ウィリクタへの旅という世界観と類似している。漫画の背景にある、幾何学紋様の壁は、オアハカのミトラ遺跡の写真である。
氏が訪れた村がどこであるのかは不詳だが、筆者が訪れたマサテコ人のウワウトラ・デ・ヒメーネス村か、その近辺であろうと思われる。ここに出てくる老女はウアウトラ・デ・ヒメーネス村の呪医、マリア・サビーナのようでもあるが、彼女は私がかの地を訪れた3年前、1985年に81歳で鬼籍に入っている。
余談ながら、筆者は一度だけ水木氏にお目にかかったことがある。西暦2003年、青森県むつ市で開かれた、第8回世界妖怪会議で、である。氏は、自分はすでに30%あの世にいるのだ、と仰っていた。本当に70%しかこの世に存在しない、といった雰囲気を醸し出されていた。それが最初で最後であった。2015年には、100%あの世の住人になられた。
そのときは、メキシコに行ってこられたという話は知らなかったので、その話ができなかったのは残念であった。いま、イタコさんを介してでも、お話がしたいものである。
CE2019/06/07 JST 作成
CE2020/05/25 JST 最終更新
蛭川立