【文献】草間彌生『すみれ強迫』

すベてがどうでもいいわけではない。投げ出しているのでもない。サチコは思う。この世の摂理がわかっているのだ。花と星と雲と風が教えてくれることだけで充分なのだ。狂っているんじゃないと私は理解しているの。脳病院にゆくのはいい。でも私の頭の中には宇宙が詰まってるのよ。星や雲や風が唄ったり笑ったり花が爆ぜて私をいっぱいにする。どうするの?アタマを開いて脳を覗くの。宇宙を見るの。それを絵に描いてみるのなら私の脳より眼球を取り出したらいいのよ。私は狂ってるんじゃない。ただ理解してるの。これが私の方法だから。見えるのよ。太陽は赤くて白くて緑色で黒くて、スミレの花は赤くて白くて緑色で黒くて、宇宙は色でみないっぱいなのよ。脳病院にゆくのはいい。でも私の頭の中には宇宙が詰まっているのよ。どうするの。アタマを開いて脳を覗くの。宇宙を見るの。でも宇宙を絵に描くのなら私の眼の玉を取り出さなければ。
 
草間彌生『すみれ強迫』[*1]

*1:草間彌生 (1998).『すみれ強迫』 作品社, 60-61.

すみれ強迫

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