この記事には医療・医学に関する記述が数多く含まれていますが、その正確性は保証されていません[*1]。検証可能な参考文献や出典が全く示されていないか、不十分です。この記事の内容の信頼性について検証が求められています。確認のための文献や情報源をご存じの方はご提示ください。
なぜ死亡数を数えるのか
死が究極の不幸か幸福かという価値判断はともかく、死亡数を数えるのは、リスクを定量化しやすいからである。病気への罹患率や重症者数などは、検査数や定義によってゆらぐが、たんに、死亡数はそれよりも明確な指標である。ただし、死因は必ずしも一対一に対応しない。
新型コロナウイルス感染症
日本での新型コロナウイルス感染症の死亡者は2020年5月1日がピークで、この1日で31名であった。いったん減った感染[判明]者数は6月から急増したように見えたが、背景には検査数の増加による見かけ上の増加があった。
もっと確実な値が死亡者数だが、7月には、1日あたり1人のレベルまで下がったものの、8月以降、増加し、その後、1日あたり、5名程度で推移している[*2]。
高齢者が多く、他の疾患とも併発することが多いことを考えると、かなりゼロに近い領域である。全死亡数の1000分の1、老衰(つまり原因不明)の100分の1のオーダーである。この数だけだと、増減やその理由を定量的に評価するのが難しい。
死者数の減少はしかし、治療の方法が進んだということも意味している。特効薬がなくても、対症療法の技術は進んだだろう。
他のリスクとの比較が必要
さて新型コロナウイルス感染症のピーク時の、1日あたり31人の死亡者の大半は高齢者である。これは、溺死者と同じオーダーである。溺死者の大半は高齢者である。日本では、入浴中の溺死が多いからである(下記グラフを参照)。
この30名というオーダーは、インフルエンザのピーク時と同じぐらいで、老衰死の10分の1ぐらいで、総死亡数の100分の1ぐらいである。
ただし、感染症の場合、感染は指数関数的に増加するので、リスクを考える場合、他の死因の数字とは単純に比較できない。病原体にとっては宿主が死ぬと生きられないというパラドックスもある。
ピーク時の死者数が同程度ならば、新型コロナウイルス感染症は毎年流行しているインフルエンザと同程度の脅威だといえるだろうか。
しかし、緊急事態宣言や外出自粛要請があったから新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことができたとも考えられる。2019ー2020年の季節性インフルエンザ流行が例年の半分程度におさまったことの原因は不明だが、緊急事態宣言よりも前に、手洗いやマスクの心がけが広がったからかもしれない。
ただし、インフルエンザの場合、感染の拡大を防ぐワクチンや治療薬があるが、新型コロナウイルス感染症に対しては、まだワクチンも治療薬もない、という違いはある。
出生数と死亡数
以下に、日本における出生数、死亡数、人工妊娠中絶件数を表にしてみた[*3]
1年当り | 1日当り | |
---|---|---|
出生数 | 86万 | 2400 |
人工妊娠中絶 | 16万 | 440 |
周産期死亡 | 3300 | 9 |
死亡数 | 137万 | 3700 |
老衰 | 11万 | 300 |
食糧不足 | 22 | 0.06 |
インフルエンザ | 3300 | 9 |
結核 | 2200 | 6 |
うつ病 | 4000 | 12 |
自殺 | 2万 | 55 |
殺人 | 936 | 3 |
配偶者殺人 | 150 | 0.4 |
死刑 | 3 | 0.01 |
交通事故 | 4600 | 13 |
溺死 | 8000 | 22 |
インフルエンザの流行にははっきりした季節性があり、例年、1月と2月がピークで、毎月1000人ほどの死者があり、1日あたりに換算すると約30人になる。2020年の数値は未確認だが、例年の半分ぐらいであろう。
自殺と殺人
他の国や地域と比べると、日本は自殺が多く、他殺が少ない(→「日照・自殺・殺人」)。自殺も他殺も年々減りつつあるが、ただし、自殺数は高齢化によって見かけ上減少するように見えるので注意が必要である。
新型コロナウイルス感染症による死亡リスクとトレードオフになると懸念されているのが自殺である。社会的活動の自粛の悪影響は、失業率によって数値化できる。そして完全失業率は自殺率と強く相関する。2019年度には2000人まで減った自殺数が、2020年度には5000人増の25000人程度まで増加する可能性が懸念される[*4]。
いっぽう、日本では諸外国に比べると殺人事件は少なく、その理由や関係も偏っている。
殺人事件の被疑者のうち、犯行時飲酒者は1958年の統計で36%である[*5]。
殺人事件における被疑者と被害者との関係は半数が親族であり[*6]、配偶者間が多い。配偶者間での暴行は、夫から妻という場合がほとんどだが、殺人の場合は夫婦でほぼ半々である[*7]。
入浴と溺死
諸外国に比べ、日本では溺死者が多い、それは、川や海で起こっているのではなく、風呂場で起こっている。犠牲者の大半は高齢者であり、心疾患とも相関する。
入浴中の溺死数(人口10万人当たり)[*8]
日本では入浴の文化が特異に発達しているが、清潔好きだからというだけでなく、バスタブに体温よりも熱い湯を入れてその中に浸かるのが、娯楽であり健康法だとも考えられている。入浴中に発作を起こし溺死する高齢者が後を絶たないことから、湯の温度を下げなければ健康法にはならないという啓蒙活動が行われているが、一般にはあまり浸透していない。
年齢によるリスクの違い
死亡率が年齢によって極端に違う場合には、すべての年齢層を合わせた致死率の数字にはあまり意味がない。
高齢になるほど致死率が高い場合は、それ以外の要因での致死率も比較検討しなければならない。
ブラジルのボルソナーロ大統領が、母親は九十歳だから、どんな病気に罹ったとしても、罹らなかったとしても、近いうちに死ぬだろう、どうせ人間はいつか死ぬのだ、云々という暴言を吐いたというが、発言の文脈を間違えたのが問題なのであって、発言内容自体に誤りはない。
日本における年齢別10年後生存率[*10]
たとえば70歳の人が80歳になるまでに死んでしまう確率は約20%である。70歳の人がこれから10年間に新型コロナウイルス感染症に感染して死亡する確率が5%だとしても、これは罹患しなくても20%が死亡するという数字と比較して検討しなければならない。10年間死亡率が長すぎるのであれば、5年間死亡率は10%以下、2.5年間死亡率は5%以下のオーダーになる。
記述の自己評価 ★★★☆☆
(認知バイアスの記事より分離独立。ネット上の記事をざっと見ただけなので数値が正確ではないかもしれない。事実誤認等、ご指摘いただければ幸いです。)
CE2020/03/07 JST 作成
CE2020/10/23 JST 最終更新
蛭川立
*1:免責事項にかんしては「Wikipedia:医療に関する免責事項」に準じています。
*3:主な数字は 厚生労働省政策統括官付参事官付人口動態・保健社会統計室 (2019).「第7表 死因簡単分類別にみた性別死亡数・死亡率(人口10万対)」『平成30年(2018)人口動態統計(確定数)の概況』(2020/04/20 JST 最終閲覧)より引用したが、それよりも古く、根拠がはっきりしない数字も含まれている。有効数字はおよそ2桁とした。誤差を示さない有効数字以下の数字は信用性に欠く。
*4:要出典
*5:法務総合研究所研究部 (1960).「第一編/第二章/三/3 酩酊犯罪」『昭和35年版 犯罪白書―わが国における犯罪とその対策―』(2020/04/20 JST 最終閲覧)1959年以降、犯行時飲酒者は統計的な資料として公開されていない。
*6:法務総合研究所研究部 (2013).「第2章 殺人事件の動向」『研究部報告50. 無差別殺傷事犯に関する研究』(2020/04/20 JST 最終閲覧)
*7:内閣府男女共同参画局 (2015).「I-4-2図 配偶者間(内縁を含む)における犯罪(殺人,傷害,暴行)の被害者の男女別割合(検挙件数,平成26年)」『男女共同参画白書 平成27年版』(2020/04/20 JST 最終閲覧)
*8:市川衛 (2019).「日本では『お風呂で溺死する』人が多い 入浴時の「ヒートショック」意外な原因と対策は」『Yahoo! JAPANニュース』(2020/04/21 JST 最終閲覧)
*9:忽那賢志 (2020).「小児と新型コロナ 重症化しないから安心ってホント?」『Yahoo! JAPANニュース』(2020/05/06 JST 最終閲覧)
*10:梶原健司 (2019). 「10年後に何%の確率で生きているか。」(2020/05/06 JST 最終閲覧)