超心理学が研究対象として仮定してきた「超常現象 paranormal phenomena」のうち、統計的に有意といえる実験結果を出しているのは、まず第一にESP(透視とテレパシーは操作的には区別し難い)であり、次はmicro-PKである。
ESPカード実験
ラインなどによって行われた初期のカード当て実験の結果は、相応に有意な結果を出しているが、実験には不備があったのではないかという批判もある。
カード当てESP実験の結果[*1]
もしテレパシーが電磁波のような物理的相互作用なら、距離の二乗に反比例するように減衰するはずであり、また鉛のような物質によって遮蔽されるはずである。
カード当てESP実験の成績を、二人の被験者の距離別に集計したもの[*2]
いっぽうで、外国など、遠距離のターゲットを透視する「遠隔透視 remort viewing」の研究も進められ、有意な結果が報告された[*3]。
ラインがカード当て実験を進めた1930年代は、量子力学が発展を遂げた時代であり、初期のESP実験の結果は、ユングの共時性の概念にも大きな影響を与えた。共時性という概念は、量子力学における非局所性 nonlocality に基づいている。(→「集合的無意識と共時性」(ブログ内記事))
非局所的な量子エンタングルメントによってはエネルギーも情報も伝わらないから、テレパシーのメカニズムの説明にはならない。しかし、共時性という概念が、事象と観測者の間に「意味のある偶然」が生じることをあらわしているのなら、そもそも物理的な距離は関係がなく、むしろ心理的な距離のほうが作用の強弱と相関する。
テレパシーとされる現象は、双子をはじめ、家族や友人のような心理的な距離が近い関係でおきやすい。物理現象は物理学的な法則にしたがって起こるが、心理現象は心理学的な法則にしたがって起こるため、客観的な物理的な時空の枠組みで定量化できない困難さをはらんでいる[*4]。
夢テレパシー
オカルトには否定的だったフロイトも、晩年にはテレパシーは存在するかもしれないと考えるようになった(→「フロイトのテレパシー論」(ブログ内記事))。しかし、ユングが量子力学の影響を受けて提唱した共時性の概念とは異なり、フロイトはテレパシーをあくまでも因果性によって解釈しようとした。それは、人間が進化の過程で無意識に抑圧してきた動物的なコミュニケーションであって、夢のような変性意識状態ではそれが顕在しやすいという仮説を論じている。
死者や神仏が「夢枕に立つ」という現象は一般によく語られることだが、そうした逸話を分析すると、じっさいに「夢枕に立つ」のは、死者よりも生者のほうが多く[*5]、このことは、かりにテレパシーという現象が存在するとしても、それが生体間でのコミュニケーションであるという仮説のほうに整合的である[*6])。
夢テレパシー実験は1970年代にニューヨークのマイモニデス医療センターで大規模な夢テレパシー実験が行われ、統計的に有意な結果が得られた。しかし睡眠実験室での研究には大がかりな設備が必要で、追試を行うのが難しい。夢テレパシー実験を簡略化し、標準化が進められていったESP実験が、ガンツフェルト法である。
ガンツフェルト実験
Natural Mystery - Discovery Channel
夢テレパシー実験からガンツフェルト実験への研究史[*9]
ガンツフェルト法は実験の手続きが標準化されており、かつその標準化された方法で多数の実験が繰り返されてきた。
まず、「送信者」と「受信者」が別々の建物の部屋に分かれる。「送信者」は、あらかじめ用意された4種類の画像や動画のうち、乱数で決定されたひとつのイメージを、「受信者」に向けて、思念で送ろうと努力する。いっぽう、「受信者」は――私もブラジルで体験したことがあるが――五感による漏洩が起こらないような薄暗い部屋に閉じ込められ、しかしゆったりした椅子に座ってリラックスする。両眼にはふつう、半分に切ったピンポン球が貼り付けられ、眼を開けても、目の前にはぼんやりした光景が一様に広がっている様子しか見えない。このような状況を、ドイツ語でGanzfeld(全視野)という。また、両耳にはヘッドホンがとりつけられ、サーッという軽い雑音がずっと流されつづける。ようするに、軽い感覚遮断状態におかれる。眠りに入る直前でうとうとしているような意識状態になる。その中で、いろいろなイメージが去来する。感じたことはそのままにしゃべって、録音しておく。
In Search of the Dead I: Powers of the Mind
BBCウェールズ製作「心の力」。ガンツフェルト法など、ESP実験の実際が紹介されている[*10]。芸術系大学の学生を対象とした実験では約50%の正答率が得られたという研究にも触れられている[*11][*12]。
実験終了後、受信者が、送信用に用意された4種類の画像のうち、どれが自分の印象にいちばん近いかを判定する。その判定結果が「送信者」が思念で送ろうとした画像と一致する確率は、まぐれ当たりでは4分の1、25パーセントである。しかし、蓄積された実験結果は、約3分の1、33パーセント前後のヒット率を記録しており、これは統計的にはきわめて有意な結果である。
通常感覚による情報の漏洩が起こったにすぎない、といった批判もあり、いまだにESPの存在が証明され、定説として受け入れられているわけではないが、そこには、心理現象の背後にある心理学的法則を、物理現象の背後にある物理学的法則のように客観的に示すことができないという基本的な問題がある。
記述の自己評価 ★★★☆☆
2019/06/06 JST 作成
2025/05/13 JST 最終更新
蛭川立
*1:ラディン, D. 石川幹人(訳)(2007).『量子の世界でからみあう心たちー超能力研究最前線』徳間書房, 129.(Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 85.)縦軸は効果サイズ。
*2:ラディン, D. 石川幹人(訳)(2007).『量子の世界でからみあう心たちー超能力研究最前線』徳間書房, 258.(Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 192.)
*3:石川幹人 (2003).「リモートビューイング実験」『超心理学講座』に詳しい解説がある。)
*4:2013年に紀伊國屋書店で行われた石川幹人と蛭川立の対談(→「【資料】石川幹人×蛭川立「『超心理学』出版記念対談」(ブログ内記事))の中で、石川が、心理学的な法則を物理科学的に定量化することの困難さを議論している。
*5:イギリス心霊研究協会が行った大規模な事例研究は1886年に『Phantasms of the Living(生者の幻影)』というタイトルで出版された。
Gurney, E., Myers, F. W. H. & Podmore, F. (1886). Phantasms of the Living. Rooms of the Society for Psychical Research; Trübner and Co.
*6:蛭川立 (2002).「転生するのは誰か」『彼岸の時間ー〈意識〉の人類学ー』春秋社.
*7:ラディン, D. 石川幹人(訳)(2007).『量子の世界でからみあう心たちー超能力研究最前線』徳間書房, 163.(Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 110.)
*8:ウルマン, M., クリップナー, S. & ヴォーン, A. 神保圭志(訳)(1987).『ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学―』工作舎. (Ullman, M., Krippner, S. & Vaughan, A. (1973). Dream Telepathy: Scientific Experiments in the Supernatural. Macmillan Company.) (マイモニデス医療センターにおける夢テレパシー実験の一般向け解説書)
*9:Discovery Channel (放映年不詳)Natural Mystery.
*10:Iverson, J. (written and produced). (1992). In Search of the Dead I: Powers of the Mind. BBC Wales.NHK教育テレビで『驚異の超心理世界』という邦題で吹き替えが放映された。
*11:Jenkins, H. (2015 / 2025). Creative Subjects in Ganzfeld. Psi Encyclopedia. London: The Society for Psychical Research.
*12:Schlitz, M. J., & Honorton, C. (1992). Ganzfeld psi performance within an artistically gifted population. Journal of the American Society for Psychical Research, 86(2), 83–98.
*13:ラディン, D. 石川幹人(訳)(2007).『量子の世界でからみあう心たちー超能力研究最前線』徳間書房, 175.(Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 192.)






