雲南モソ人の祭司による疫病退散の読経

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落水村はルグ湖畔にあり、モソ人社会の中心となる集落である。

西暦2003年4月23日。かなり確からしい噂によれば、下界では、ネコの肉から感染する謎の肺炎が流行を広げているという。情報が錯綜している。情報が不足している。テレビは具体的な情報を流してくれない。頼りになるのはネットである。

インターネットに接続しているパソコンが一台だけ、落水の村役場にあるらしい。

通訳の女性と一緒に行ってみると、そのパソコンを占領していたのはダパ(シャーマン)だった。会ってみたかったのだが、一期一会、ちょうどこの落水村に来ていたというわけである。

感染の現状はどうなっているのだろうか。歩み寄っていくとダパはブラウザのウインドウを閉じた。

ダパに挨拶をした。31歳。姓はアウォー、名はイシュートゥティ、近隣の村で母親と一緒に暮らしている。同じ村の別の家の女性との間に、6歳になる息子がいるという。

ダパは病気治しができるのだと聞いていたから、私は通訳の女性に頼んだ。それなら謎の肺炎だって退散させられるのでしょう。そう伝えると、彼は、中国全土を支配しつつある病毒を調伏させるなんて自分には無理だ、と当惑していたが、儀礼用の衣装に着替えて、準備をしてくれた。

それでも、まだ、もじもじしている。好?OK?

やっと疫病平癒の読経をはじめてくれた。


モソ人のダパによる疫病退散の読経

チベット仏教ふうの読経である。シャイな彼も、本番になるとあんがい力強い。ずっと聞いていると脳波が秒針を刻むように同調して行く。

ひととおり経文を唱え終わると、アウォーさんは、自信なさげに、照れくさそうに頭を掻いた。こんなので大丈夫なのだろうか。

落水まで来たのは、じつは、また別の恋人に逢うためなのでしょう、と突っ込んでみると、アウォーさんは、この村には、そういう関係にある女性はいないのだと言う。シャイな性格なので、なかなか女性にアプローチできないのだという。

とにかく、感染の現状を知りたい。パソコンでブラウザを立ち上げる。なぜか、アダルトサイトが表示されてしまう。

パソコンもすでにウイルスに感染してしまったのかと思いきや、どうやら直前にアウォーさんが観ていたサイトの履歴が残っていたらしい。いったい彼はこの村に何をしに来たのやら。

ガイドの女性が、すこし風邪気味だから今日は夕食はやめて早めに休みたい、といって宿に戻っていった。数日前に北京から来た観光客と「密切接触」をしたのが気になるのだと。そういう彼女は私とも、まだ二日だけだが「密切接触」を続けている。

ネコの肉から感染する肺炎は広東省だけに封じ込められているという公式発表は、かなり怪しい。彼女の話では、なぜか遠く離れた北京でかなりの感染者が出ているらしい。

簡単に夕食をとった後、腹部の膨張感があり、水様性の下痢が始まった。腹痛はないのだが、お腹がゴロゴロと音を立てる。早めに寝る。

翌24日、新華社通信が、非典型肺炎の感染が中国全土に広まっていると報道した。突然の情報公開だったが、人々は、政府の言うことなど初めから信用していないし、ここは雲南の山の中だし、という感じで、とくに驚いてもいないようだった。

昼すぎから急に熱っぽくなってきた。体温を測ると37.9℃あった。成都の市場で四川料理を食べ歩いてから六日が経っていた。読経は効かなかったのだろうか。夜には体温は38℃を超え、頭痛と息苦しさで倒れ、一晩中悪夢にうなされた挙げ句、臨死体験のような体験をして戻ってきた。一週間ほどで寛解した。



この動画を17年ぶりに発掘し編集しアップしたのが2020年5月11日である。その日の夜、急に水様性下痢が始まり、それから風邪のような症状で発熱し、寝込んでしまった。これも、一週間ほどで寛解した。

SARS-CoVも同種異株であるSARS-CoV-2も、雲南省のコウモリに由来するという。いったいどういうシンクロニシティなのだろうか。抗体検査をの態勢が整うには、まだしばらくかかりそうだ。


雲南省四川省の省境にあるルグ湖



CE2020/05/11 JST 作成
CE2020/06/01 JST 最終更新
蛭川立

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