人類の進化と大脳化

大型類人猿とヒト

ヒトの祖先は、およそ500万年前[*1]に、チンパンジー属とゴリラ属の共通祖先から分岐した。その後、多数の系統に枝分かれしながら、現在に至っている。

https://qph.fs.quoracdn.net/main-qimg-b74aca444a2e8371fb4b60a2d36b245f

大型類人猿とヒトの系統[*2]

化石人類の系統

チンパンジー属、ゴリラ属の共通祖先から分化した後も、人類の系統は分岐と絶滅を繰り返しながら進化してきた。

以下は現生人類につながる種の系統分類。現生のホモ・サピエンス以外はすべて絶滅し、化石でしかその存在を知られていない。

  • Genus Sahelantropus サヘラントロプス
    • (700万年前、中部アフリカ)
  • Genus Orrorin オロリン
    • (600万年前、東アフリカ)
  • Genus Ardipithecus アルディピテクス
    • (600~450万年前、東アフリカ)
  • Genus Australopithecus アウストラロピテクス
    • (華奢 gracil な猿人、450~250万年前、東アフリカ)
  • Genus Paranthropus パラントロプス属
    • (頑丈 robust な猿人、300~150万年前、東アフリカ)
  • Genus Homo ヒト属
    • Homo habilis ホモ・ハビリス
      • (250~150万年前、東アフリカ)
    • Homo erectus ホモ・エレクトス
      • (原人、140~15万年前、アフリカ~東南アジア)
    • Homo sapiens
      • Homo sapiens neanderthalensis ネアンデルタール人
        • 旧人、20~3万年前、アフリカ~東南アジア)
      • Homo sapiens ssp. Denisova デニソワ人 
      • Homo sapiens sapiens ヒト
        • (新人=現生人類、20万年前〜現在、東アフリカから全世界に拡散) 

f:id:hirukawalaboratory:20200928101811p:plain
化石人類の系統樹[*3]


ネアンデルタール人は主にヨーロッパに住んでいたが、4万年前に絶滅した。アフリカを出た現生人類がヨーロッパに到達したのが4万5千年前なので、両者は数千年間共存していたと考えられる。あるいは、現生人類がネアンデルタール人を滅ぼしたのかもしれない。

遺伝学的な研究は、現生人類のゲノムの中にネアンデルタール人に由来すると思われる遺伝子が多数含まれていることから、両者は交雑したのだとも推測される。この場合、ネアンデルタール人は現生人類の亜種 Homo sapiens neanderthalensis ということになる。(生物学における「種」とは、互いに交配可能で、その子が生殖能力を持つことによって定義される。)

f:id:hirukawalaboratory:20200928101851p:plain
蛭川のゲノムに含まれるネアンデルタール人の遺伝子。染色体全体に広く分布している[*4]

大脳化

人類が他の生物と大きく異なるのは、その脳のサイズであるが、この大脳化は、最近200万年の間に、急速に起こったと推測されている。

https://cdn.britannica.com/s:700x500/93/393-050-12C6DE14/increase-capacity.jpg

主要な化石人類の頭蓋骨[*5]

https://ncse.ngo/files/images/Fossil_homs_cranial_capacity_vs_time_0.img_assist_custom.png
化石人類の脳容量。右下の赤線は現生のチンパンジーであり、初期の化石人類と脳容量がほぼ等しい[*6]

大脳化の要因については、複数の仮説がある。生活形態が樹上生活から地上生活に変わり、二足歩行を始めることで両手が自由になり、道具を使うことで、思考能力が発達したという説もあるが、化石人類が二足歩行を始めた400万年以上前であり、本格的に大脳化が始まったのは200万年前なので、かなりの時間差がある。

草食性だったとされるパラントロプスは大脳化せず絶滅していったことからすると、食性が肉食に変化したことが大脳化の大きな要因かもしれない。獲物となる動物を捕まえるのには高い知能が必要とされるからである。

ヒトの進化と気候変動

霊長類の進化、そして人類の進化のプロセスには、背景となる気候変動が大きな影響を及ぼしたと考えられている。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/f/f5/All_palaeotemps.png
過去5億年の気候変動。2050年、2100年の値は推計値[*7]

新生代(上図の緑線より右側)は全体的に氷河期に向かう寒冷化の時期であり、人類の祖先が縮小する熱帯雨林を出てサバンナで二足歩行をするようになったのも、こうした寒冷化の影響があった。

より短い時間のスケールでみると、過去100万年ほどの間に、氷河期と間氷期が繰り返されてきたことがわかる。これは、太陽と地球の位置関係が周期的に変わることによって説明されている。7〜1万年前のヴルム氷期(最終氷期)は現生人類がアフリカを出て世界各地に拡散していった時期と重なっている。

https://pbs.twimg.com/media/ECGP5BsU0AEAVKs?format=jpg&name=900x900
ヴルム氷期(最終氷期)の後は温暖な時代が続いた[*8]

その後の間氷期(つまり現在に至る時代)には気温の上昇とともに海水面が上昇した。日本では縄文海進期に相当する。

https://sarasina.jp/user_data/editor/ckfinder/core/connector/php/upload/images/%E5%8C%97%E5%8D%8A%E7%90%83%E6%B0%97%E6%B8%A9a(1).jpg
過去二千年の気候変動[*9]

日本でいえば平安時代ぐらいに温暖な時期があり、その後、ふたたび氷河期に向かう気温の低下が起こってきたといわれるが、はっきりしない。太陽黒点の観測が始まった後では、17世紀に小氷期があったと推定されている。さらにその後の気温の上昇が、人為的な二酸化炭素の増加によって起こったのかどうかも、まだよくわからない。



CE2017/04/20 JST 作成
CE2021/09/27 JST 最終更新
蛭川立

*1:共通祖先の化石が見つかっていないので、年代の推定には分子時計を使うしかないのだが、その計算方法によって分岐年代には誤差が出る。

*2:Which apes did man evolve from? Have scientists found a fossil from the transitional form of this ape? Quora. (2019/04/19 JST 最終閲覧)

*3:NHKスペシャル「人類誕生」製作班(編) 馬場悠男(監修)(2018).『NHKスペシャル 人類誕生』学研プラス, 9.

*4:23andMe社による分析

*5:Britannica Group, Inc. Increasing brain size. Encyclopedia Britannica. (2019/04/19 JST 最終閲覧)

*6:Steve Newton. (2008). Transitional Fossils Are Not Rare. National Center for Science Education. (2019/04/19 JST 最終閲覧)

*7:File:All palaeotemps.png」『Wikipedia』(2020/11/01 JST 最終閲覧)

*8:八百屋長兵衛 (2019).「【縄文海進】7千年前から9千年前の縄文時代の急激な気温上昇」(2020/05/14 JST 最終閲覧)

*9:平安時代の日本列島の気候」『更級日記紀行』(2020/05/14 JST 最終閲覧)(孫引き)