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さて、超心理学が仮定する現象の分類は、いくらでも、もっと細かく進めることもできるが、ここで重要なのは、これらの分類は、あくまでもその存在を確かめるために行う実験のための、操作的(operational)な分類であって、初めからその実在が仮定されているわけではないということである。
それでは百年にわたって実験が続けられてきた結果、これらの現象が存在することが確認されたのかというと、証明されたとも、否定されたとも、はっきりしたことは何も言えない。というのも、大量の実験結果は統計的に分析され、そして分析の結果言えるのは、つねに、このような結果が偶然に得られる確率は十分に低い、つまり、どうやら偶然とはいえない、ということだけだからである。ただし、これは超心理学だけがそうなのではなく、心という実体のないものを扱う実験心理学全体が、こうした統計的な方法論をとっているため、つねに「ないとはいえない」という、あいまいな二重否定でしか語れない。そして、その「確率は十分に低い」というのが、5パーセントなのか、1パーセントなのか、あるいはもっと低くなければいけないのかは、研究する側が目安として決めていることで、絶対的な基準はない。そのような意味では、統計的な方法に従っている以上、さまざまな超心理現象、いや、すべての心理現象について、原理的に、確実に存在すると証明されたものはなにひとつない。くどいようだが、統計的な方法というのは、そういうものだからである。
ここまで長々と前置きをしても、なお、(そして、実験のミスやデータの意図的な改ざん・隠蔽などの要素を排除してもなお、)多数に分類され、実験が重ねられてきた超心理現象のうち、少なくとも2、3は存在する可能性が高いといえるだけの十分な統計的結果を蓄積してきている。
第一に、ESPである。狭義には透視のことであるが、下位概念であるテレパシーとは操作的な区別ができないので、まとめて扱われることが多い。
ラインなどによって行われた初期のカード当て実験の結果は、相応に有意な結果を出している。
ゼナーカードによるカード当て実験
カード当てESP実験の結果[*1]
この時代はまた、量子力学が発展を遂げた時代であり、初期のESP実験の結果は、ユングの共時性の概念にも大きな影響を与えた。
カード当てESP実験の成績を、二人の被験者の距離別に集計したもの[*2]
しかし、距離が遠ざかると効果が減衰するというメタ分析もある。もしそうなら、ESPは量子力学のような現代物理学を持ち出すまでもなく、単純に古典力学的な相互作用として説明できるのかもしれない。
夢テレパシー
オカルトには否定的だったフロイトも、晩年にはテレパシーは存在するかもしれないと考えるようになった(→「フロイトのテレパシー論」)。しかし、ユングが量子力学の影響を受けて提唱した共時性の概念とは異なり、フロイトはテレパシーをあくまでも因果性によって解釈しようとした。それは、人間が進化の過程で無意識に抑圧してきた動物的なコミュニケーションであって、夢のような変性意識状態ではそれが顕在しやすいという仮説を論じている。
死者や神仏が「夢枕に立つ」という現象は一般によく語られることだが、そうした逸話を分析すると、じっさいに「夢枕に立つ」のは、死者よりも生者のほうが多く[*3]、このことは、かりにテレパシーという現象が存在するとしても、それが生体間でのコミュニケーションであるという仮説のほうに整合的である(→「転生するのは誰か」)。
夢テレパシー実験は1970年代にニューヨークのマイモニデス医療センターで大規模な夢テレパシー実験が行われ、統計的に有意な結果が得られた。
しかし睡眠実験室での研究には大がかりな設備が必要で、追試を行うのが難しい。夢テレパシー実験を簡略化し、標準化が進められていったESP実験が、ガンツフェルト法である。
ガンツフェルト実験
Natural Mystery - Discovery Channel
夢テレパシー実験からガンツフェルト実験への研究史[*6](30分ぐらいのところにガンツフェルト実験の様子が紹介されている。)
ガンツフェルト法は実験の手続きが標準化されており、かつその標準化された方法で多数の実験が繰り返されてきた。まず、「送信者」と「受信者」が別々の建物の部屋に分かれる。「送信者」は、あらかじめ用意された4種類の画像や動画のうち、乱数で決定されたひとつのイメージを、「受信者」に向けて、思念で送ろうと努力する。いっぽう、「受信者」は――私もブラジルで体験したことがあるが――五感による漏洩が起こらないような薄暗い部屋に閉じ込められ、しかしゆったりした椅子に座ってリラックスする。両眼にはふつう、半分に切ったピンポン球が貼り付けられ、眼を開けても、目の前にはぼんやりした光景が一様に広がっている様子しか見えない。このような状況を、ドイツ語でGanzfeld(全視野)という。また、両耳にはヘッドホンがとりつけられ、サーッという軽い雑音がずっと流されつづける。ようするに、軽い感覚遮断状態におかれる。眠りに入る直前でうとうとしているような意識状態になる。その中で、いろいろなイメージが去来する。感じたことはそのままにしゃべって、録音しておく。
In Search of the Dead I: Powers of the Mind
BBCウェールズ製作「心の力」。ガンツフェルト法など、ESP実験の実際が紹介されている[*7]。(10〜20分あたりでガンツフェルト実験が紹介されています。)
実験終了後、受信者が、送信用に用意された4種類の画像のうち、どれが自分の印象にいちばん近いかを判定する。その判定結果が「送信者」が思念で送ろうとした画像と一致する確率は、まぐれ当たりでは4分の1、25パーセントである。しかし、蓄積された実験結果は、約3分の1、33パーセント前後のヒット率を記録しており、これは統計的にはきわめて有意な結果である。
通常感覚による情報漏洩など、実験の不備や、不正があったのではないか、といった批判もある。成功した実験だけが公表されているのではないか(公表バイアス:publishing bias)、失敗した実験が公表されていないのではないか(お蔵入り問題:drawer preblem)という問題もあるが、メタ分析の結果は、七万回の失敗実験がお蔵入りしていなければ説明できないだけの偏りを示している。
それでも、いまだにESPの存在が証明され、定説として受け入れられているわけではない。データの蓄積が不足しているというよりは、メカニズムを説明できる理論がない、という理由も大きい。
CE2019/06/14 JST 作成
CE2020/06/12 JST 最終更新
蛭川立
*1:Radin, D. (2006). Entangled Minds: Extrasensory Experiences in a Quantum Reality. Paraview Pocket Books, 85. 縦軸は効果サイズ。
*2:前掲書, 192.
*3:イギリス心霊研究協会が行った大規模な事例研究は1886年に『Phantasms of the Living(生者の幻影)』というタイトルで出版された。
Gurney, E., Myers, F. W. H. & Podmore, F. (1886). Phantasms of the Living. Rooms of the Society for Psychical Research; Trübner and Co.
*4:前掲書, 110.
*5:ウルマン, M., クリップナー, S. & ヴォーン, A. 神保圭志(訳)(1987).『ドリーム・テレパシー―テレパシー夢・ESP夢・予知夢の科学―』工作舎. (Ullman, M., Krippner, S. & Vaughan, A. (1973). Dream Telepathy: Scientific Experiments in the Supernatural. Macmillan Company.) (マイモニデス医療センターにおける夢テレパシー実験の一般向け解説書)
*6:Discovery Channel (放映年不詳)Natural Mystery.
*7:Iverson, J. (written and produced). (1992). In Search of the Dead I: Powers of the Mind. BBC Wales.NHK教育テレビで『驚異の超心理世界』という邦題で吹き替えが放映された。
*8:前掲書, 192.
*9:Radin, Op. cit., 121.